派遣の社会保険の加入条件は?扶養・手取り・手続きを解説

「派遣で働きたいけど、社会保険ってどうなるの?」「扶養の範囲で働きたいのに、強制的に加入しなきゃいけないの?」

派遣社員として働く上で、社会保険の仕組みは少し複雑で分かりにくいですよね。特に、毎月の手取り額や扶養に関わるため、加入条件を正しく理解しておくことは非常に重要です。

この記事では、派遣社員の社会保険について、以下の点を分かりやすく解説します。

  • 社会保険の具体的な加入条件
  • 毎月の保険料と手取り額の目安
  • 加入するメリット・デメリット
  • 扶養内で働くためのポイント
  • 加入や脱退の手続きの流れ

この記事を読めば、派遣の社会保険に関するあなたの疑問がすべて解決し、安心して自分に合った働き方を選べるようになります。

派遣社員の社会保険、加入が必須になる条件

派遣社員の社会保険加入は、任意ではなく、法律で定められた一定の条件を満たす場合に義務となります。つまり、自分の意思で「入りたい」「入りたくない」と選べるわけではありません。

ここでは、どのような場合に加入義務が発生するのか、具体的な条件を詳しく見ていきましょう。

社会保険の加入要件5つを全て満たす必要

派遣社員が社会保険(健康保険・厚生年金保険)に加入するには、以下の5つの条件を「すべて」満たす必要があります。一つでも当てはまらない項目があれば、原則として加入対象にはなりません。

1.週の所定労働時間が20時間以上

所定労働時間とは、派遣の雇用契約書で定められた、休憩時間を除く1週間の労働時間のことです。
例えば、「週3日、1日5時間勤務」の契約であれば、週の所定労働時間は15時間となり、この条件は満たしません。一方で、「週4日、1日5時間勤務」であれば20時間となり、条件を満たします。
ポイントは、契約上の時間であるという点です。一時的な残業時間は含まれません。

2.雇用期間が2ヶ月を超える見込み

契約期間が2ヶ月を超える見込みがある場合、加入対象となります。
「でも、最初の契約は2ヶ月間だけだけど…?」と疑問に思うかもしれません。この場合でも、契約書に「更新する場合がある」といった記載があったり、同様の契約で働いている他の派遣社員が2ヶ月を超えて契約更新していたりする実績があれば、「2ヶ月を超える見込みがある」と判断され、契約開始日から加入することになります。

3.月額賃金が8.8万円以上

契約で定められた賃金が月額で8.8万円以上であることも条件の一つです。
これは年収に換算すると約106万円となり、いわゆる「106万円の壁」に直結します。この賃金には、残業代、賞与(ボーナス)、交通費などは含まれません。時給制の場合は、「時給 × 1ヶ月の所定労働時間」で計算します。

4.学生ではないこと

原則として、大学や高校などに通う学生は加入対象外です。
ただし、夜間大学や通信制の学生、卒業後も引き続き同じ会社で働くことが決まっている場合などは、加入対象となることがあります。

5.従業員101人以上の企業に勤務

2025年7月時点では、勤務先の従業員数が51人以上であることも条件です。
派遣社員の場合、この従業員数は実際に働く派遣先企業ではなく、雇用主である派遣会社の規模で判断されます。

加入義務は派遣先でなく派遣会社にある

派遣社員の社会保険について、手続きや問い合わせはどこにすれば良いのでしょうか?
答えは、雇用主である「派遣会社(派遣元)」です。実際に仕事をするのは派遣先企業ですが、給与の支払いや社会保険の加入手続きは、すべて派遣会社が行います。求人票に「社会保険完備」と記載がある場合、その義務を負っているのは派遣会社となります。

短期や2ヶ月契約での社会保険の扱い

「2ヶ月だけの短期の仕事なら、社会保険に入らなくていい?」と考える方も多いですが、注意が必要です。
前述の通り、たとえ当初の契約期間が2ヶ月以内であっても、契約が更新される可能性があれば、加入が必要です。
例えば、1ヶ月更新を繰り返すような仕事も、実態として2ヶ月を超えて働くことが見込まれるため、加入対象となります。

社会保険に加入するメリット・デメリット

社会保険に加入すると手取りが減るため、デメリットばかりに目が行きがちです。しかし、将来のことや万が一の事態を考えると、非常に大きなメリットがあります。

加入する3つのメリット

*将来の年金受給額が増える

日本の公的年金は2階建て構造になっています。社会保険に加入しない場合は、基礎となる「国民年金」のみですが、加入することで2階部分にあたる「厚生年金」が上乗せされます。これにより、将来受け取れる年金額が大幅に増えるため、老後の生活の安心につながります。

*国民健康保険より手厚い保障制度

自分で全額を支払う国民健康保険と比べて、派遣の社会保険(健康保険)には大きなメリットがあります。

  • 保険料が半額負担
    前述の通り、保険料の半分を派遣会社が負担してくれます。
  • 家族を扶養に入れられる
    あなたの収入で生計を立てている配偶者や子供がいる場合、追加の保険料なしで扶養家族として健康保険に加入させることができます。

*傷病手当金や出産手当金が受け取れる

これは健康保険の非常に大きなメリットです。

  • 傷病手当金
    業務外の病気やケガで連続して連続3日(待機期間)を含む4日以上働けなくなった場合に支給されます。
  • 出産手当金
    出産のために会社を休み、給与が支払われない期間に支給されます。

これらの手当は、国民健康保険にはない制度です。万が一の時でも収入が保障されるのは、働く上で大きな安心材料となります。

加入するデメリットは手取り額の減少

一方、社会保険に加入する明確なデメリットは、保険料が給与から天引きされるため、毎月の手取り額が減ってしまうことです。
特に、これまで扶養内で働いてきた方が新たに加入する場合、収入は増えても手取りが減る「働き損」と感じる期間が発生する可能性があります。
しかし、これは単なる支出ではなく、将来の年金や万が一の保障への「投資」と捉えることもできます。

扶養内で働くための条件と働き方

「夫の扶養に入ったまま働きたい」という方は、年収の「壁」を意識する必要があります。扶養には「税法上の扶養」と「社会保険上の扶養」があり、それぞれ基準が異なるため注意が必要です。

税法上の扶養「103万円の壁」

年収が103万円を超えると、あなた自身に所得税がかかり始めます。これは一般的に「103万円の壁」と呼ばれ、配偶者が受けられる「配偶者控除」にも影響します。

社会保険の扶養「130万円の壁」

年収が130万円を超えると、夫の社会保険の扶養から外れ、自分で国民健康保険と国民年金に加入する必要が出てきます。これが「130万円の壁」です。

短時間労働者の「106万円の壁」

派遣社員が最も注意すべきなのが、この「106万円の壁」です。
先ほど解説した社会保険の加入条件(週20時間以上、月収8.8万円以上など)を満たすと、年収が130万円未満であっても、夫の扶養から外れて自分自身で社会保険に加入する義務が発生します。月収8.8万円を年収に換算すると約106万円になるため、こう呼ばれています。

社会保険に加入したくない場合の働き方

もし意図的に社会保険への加入を避けたい(扶養内で働き続けたい)場合は、加入条件のいずれかを満たさないように働き方を調整する必要があります。

  • 週の労働時間を20時間未満に抑える
    最も調整しやすい方法です。例えば、週3日勤務で1日6時間(計18時間)などにします。
  • 月収を8.8万円未満に調整する
    時給や労働時間を調整し、月収が8.8万円を超えないようにします。
  • 雇用期間が2ヶ月を超えない短期の仕事を選ぶ
    契約更新のない、2ヶ月以内の短期・単発の仕事に絞って探します。
  • 従業員50人以下の派遣会社を選ぶ
    派遣会社の規模が小さい場合、加入対象外となることがあります。

ただし、これらの働き方は選べる仕事の幅が狭まったり、収入が制限されたりする点に注意が必要です。

社会保険の加入・喪失手続きの流れ

「手続きが面倒くさそう…」と感じるかもしれませんが、心配は不要です。社会保険に関する手続きは、基本的にすべて派遣会社が行ってくれます。

派遣会社への登録から加入までの手順

  1. 派遣会社に登録し、仕事に応募する
  2. 仕事が決定し、雇用契約を結ぶ
    この時点で、社会保険の加入条件を満たしているかどうかが確認されます。
  3. 必要書類を派遣会社に提出する
    加入対象となる場合、派遣会社から案内があります。主にマイナンバーカード(または通知カード)や年金手帳(または基礎年金番号通知書)などを提出します。
  4. 健康保険証を受け取る
    手続きが完了すると、派遣会社経由で健康保険証が交付されます。通常、1~2週間程度かかります。

契約更新が途切れた場合の資格喪失

派遣契約が終了すると、その翌日に社会保険の資格を喪失します。
もし、次の仕事が決まるまでに1日でも空白期間が空く場合は、自分で市区町村の役所に行き、国民健康保険と国民年金への切り替え手続きが必要になるので注意しましょう。

派遣会社を変更した場合の社会保険

A社からB社へ派遣会社を移る場合、社会保険も一度リセットされます。
A社との契約終了時に資格を喪失し、B社との契約開始時に新たに加入手続きを行うことになります。健康保険証も新しいものがB社から発行されるため、A社の保険証は返却する必要があります。

派遣の社会保険に関するよくある質問

最後に、派遣の社会保険についてよく寄せられる質問にお答えします。

Q. 65歳以上でも加入できますか?

A. はい、条件を満たせば加入できます。
ただし、保険の種類によって扱いが異なります。

  • 健康保険: 75歳になるまで加入できます。
  • 厚生年金保険: 70歳になるまで加入できます。
  • 雇用保険: 65歳以上で新たに雇用される場合も、条件を満たせば加入対象となります。

Q. 雇用保険とは別ですか?

A. はい、別の制度ですが、広義の社会保険に含まれます。
一般的に「社会保険」という場合、健康保険と厚生年金保険を指すことが多いです。
雇用保険は、失業した際の失業手当や育児休業給付金などに関わる保険で、これも加入条件(週20時間以上の労働、31日以上の雇用見込みなど)を満たせば加入義務があります。

Q. 無期雇用派遣の場合も同じですか?

A. はい、加入条件は同じです。
無期雇用派遣とは、期間の定めのない雇用契約を派遣会社と結ぶ働き方です。雇用が安定しているため、労働時間などの条件を満たし、ほとんどの場合で社会保険の加入対象となります。

Q. 社会保険に入れないと言われたら?

A. まずは、なぜ加入できないのか理由を確認しましょう。
5つの加入条件のうち、どれかを満たしていない可能性があります。もし、すべての条件を満たしているにもかかわらず「加入できない」と言われた場合、それは違法の可能性があります。
その際は、派遣会社の担当者に再度確認するか、年金事務所や労働基準監督署などの専門機関に相談することをおすすめします。

まとめ

今回は、派遣社員の社会保険について、加入条件から手続きまで詳しく解説しました。最後に、重要なポイントを振り返りましょう。

  • 加入は義務: 5つの加入条件(週20時間以上、月収8.8万円以上など)をすべて満たすと、強制的に加入となる。
  • 手続きは派遣会社が担当: 雇用主である派遣会社(派遣元)が手続きを行う。
  • 保険料は会社と折半: 健康保険料と厚生年金保険料は、派遣会社が半分負担してくれる。
  • メリットは大きい: 手取りは減るが、将来の年金が増え、病気やケガ、出産の際の保障も手厚くなる。
  • 扶養内希望者は「106万円の壁」に注意: 加入条件を満たすと、年収130万円未満でも扶養から外れる。

社会保険の仕組みは、あなたのライフプランや働き方を考える上で欠かせない知識です。この記事を参考に、ご自身の状況に合った最適な働き方を見つけてください。

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